経済産業省製造産業局素形材産業室長 星野 昌志
明けましておめでとうございます。令和7年の年頭に当たり、一言御挨拶申し上げます。
○はじめに
昨年は、パリ五輪に世界中が湧いた年になりました。陸上や競泳、柔道、レスリングなどの伝統的な種目のみならず、東京五輪で始まったスケートボードや新たに行われたブレイキンなど、若手選手が活躍する種目もあり、選手たちの応援が日々熱を帯びました。スポーツの世界でも、伝統と革新の融合が起こり、発展に向けて歩みを続けていることは素晴らしいと感じました。
○国内外の構造変化
世界は今、大きな転換期を迎えています。保護主義の台頭やウクライナ侵攻の長期化等による地政学リスクの高まり、AI等の技術革新の加速、気候変動をはじめとした地球規模課題に対する各国政府の関与の強まりなど、様々な構造的変化が生まれています。
こうした中、日本経済も、これまでのコストカット型のデフレ経済から、持続的な賃上げや活発な投資でけん引する成長型経済への転換局面を迎えています。昨年は、1991年以来の高水準の賃上げや過去最高の設備投資が実現するなど、日本経済に明るい兆しが見られました。しかし、足下の物価高を背景に、消費は未だ力強さを欠いています。この成長型経済への転換を確実なものとするため、本年も、経済産業省として様々な取組を進めてまいります。
○新たな素形材産業ビジョン
素形材産業は、様々なものづくりに欠かせない基盤です。日本は、素形材技術を活用し、高品質な部品等を安定して製造できる強みを持っていますが、新興国をはじめとする各国との競争は激化しており、金属積層造形等の新たな製造技術の導入も進展しています。日本の製造業全体の成長戦略に伴い、素形材産業自らが変化していく必要があります。
こうした中、現状維持にとどまらず、前向きな挑戦を行う素形材企業を後押しするため、中長期の視点から、社会課題への対応策を含む必要な取組を検討し、素形材産業の未来の選択肢を提示する新たな「素形材産業ビジョン」の策定が進められています。昨年7月、経済産業省に学界や産業界、金融機関、メディア等が参加する委員会が設置され、本年2月頃にその報告書が取りまとめられる予定です。
本ビジョンの大きな目的は、素形材産業が稼ぐ力を向上し、研究開発や設備、人材への投資を進め、世界の製造業の構造変化への対応力を強化することです。それに向けて、素形材産業の大きな需要先である自動車分野で競争力を確保するとともに、航空宇宙等の高付加価値分野への進出、戦略的に重要な海外地域への展開、さらには新技術との融合による素形材の新たな領域拡大を目指します。取り組む分野は、DX、GX、経済安全保障に加え、経営力、技術力、情報発信力、人材育成力の一層の強化、そして企業努力の成果を適切に還元し、さらなる投資へ向かうための取引適正化など多岐にわたります。本ビジョンが公表された際には、様々な業界・企業の皆様に賛同いただき、具体的なアクションへと結びつくことを期待しています。
○素形材月間
昨年11月、素形材産業の重要性を広く社会一般に周知し、業界の活性化を図ることを目的とした「素形材月間」の第30回記念行事が行われました。経済産業省として、一般財団法人素形材センター及び関係団体・企業ともに、新たな表彰制度づくりや素形材関係の特別展示などを実施しました。
具体的には、ビジネスモデルや柔軟な働き方、健康経営などの先進的な取組を行う企業を表彰する「素形材産業経営賞」を創設しました。また、サーマルテクノロジー2024、JIMTOF2024、j-dec2024日本ダイカスト会議・展示会において、「素形材×デザイン・アニメ・ファッション・音楽」をテーマとする展示を行いました。多くの来場者に、素形材が日々の暮らしと未来の可能性を切り開く技術であることを知っていただく貴重な機会になったのではないかと思います。本年も素形材産業の情報発信を、皆様とともに積極的に取り組んでまいります。
○おわりに
本年は大阪・関西万博の開催年であり、未来社会の実験場というコンセプトのもと、AI・ロボット、GX、DX、ライフサイエンス等の最先端の技術が集結し、新たな産業の誕生・成長の機会になることが期待されます。ぜひ、御家族や御友人と一緒に足を運んでいただければと思います。
素形材の未来は私たちの未来。これが昨年の素形材月間でのスローガンでした。世界の産業は大きく変化し続けています。伝統と革新技術の融合が至るところで起こっています。日本の素形材産業が高い技術力を持ち、安定した品質を提供することで、あらゆる製造業の基盤となり続けることができると考えています。変化の先頭に立っていこうではありませんか。
本年も日本が元気になる多くの出来事を期待しながら、素形材産業の発展と皆様の御健勝を祈念して、年頭の御挨拶といたします。